2015年8月8日土曜日

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)……声に出して言いたい監督名


2014年/アメリカ
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督


あらすじ:
落ち目のハリウッドスターが再起をかけてブロードウェイに進出します。


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私の愛してやまない作家のひとりに、伊藤計劃と言う方がいるのですが。
この方はノベライズや共作以外のオリジナル作品としてはたった2作を残して夭折した、素晴らしい才能を持ったSF作家だったのですが、大の映画好きでもありまして、作家になる前から独特な目線で映画の感想をブログにしたためておられました。
その中に、こういった一節があります。


まず、映画は「テーマを観に行くものではない」ということです。

宣伝文句で言われていることは、大体の場合映画の作り手の意思とは何の関係もありません。「ミュンヘン」を観て「テーマがよくわからなかった」などという人は、映画を観に映画館に行っているわけではないのです。代理店のコピーライターが考えた数行のキャッチコピーを、わざわざ1800円払って映画館に確認しにいっているだけなのです。

映画とは、そこにただある映像に過ぎません。



この映画のレビューを眺めていると、「テーマ/伝えたいことがよく分からなかった」という一節を時々見かけました。
大変残念な映画の見方だと思います。キャッチコピーでは分からない、言葉にできない何かを得ようと意識を持って映画を観たいものだな、と思います。
とはいえ、私もうまく何かをキャッチできているのか、与えられた分だけでも得られているのか、非常に不安なところではありますが。お金を払い数時間かけて映画を観るからには、テーマ以外の何かを一つでも多く拾っていきたいよね。この日記を読んで以降、自分の肝に銘じ、強く意識していることでもあります。

というわけでバードマン。
冒頭からびっくりするんだけど、主人公であるところのマイケル・キートンは超能力を使えるんですよね。予告編観てるとそういうファンタジー要素あるのかな?とは思ってたけど、まさかそんなあからさまに浮遊してるとは思わなくてびっくりしました。
といっても、あからさまに超能力らしき何かを使っているシーンって彼が1人きりの時に限られている。本当に超能力の使い手なのか、妄想なのかが分からないんですね。
はっきり言ってしまえば、彼が本当に超能力を使えるかどうかはどうでもいいわけです。彼は超能力を使えると思っていて、不可解な事象を自分の力のせいと捉え、それに振り回されているという事実だけが大事なのです。
そのあたり大変絶妙で良い。いい年こいたおっさんが60年代のコメディドラマみたいに指先ひとつでいろんなものを浮かしてみたりするような、ステレオタイプな超能力の使い方しちゃうのが何とも言えず滑稽です。超能力のタイプが古いんよね。「奥様は魔女」みたいなさ。若くて美人な奥様が使うからチャーミングに見えたしぐさも、くたびれたおっさんが人差し指でビシッと指さして家具とか動かそうとするのって、「お前大丈夫か」って心配したくなっちゃうよね。

娘役のエマ・ストーンは今作で存在を知ったのですが、すごく、すごくいい女優ですね!チャーミングだし、若者らしく自分を見失って無軌道にさまよっている。怠惰で、傲慢で、尊大で、脆い。若者って凄く複雑で面倒ですけど、それだけ魅力的で、そういった若者のすべてをうまく表現できる稀有な方だなあと思いました。
私は半分以上エドワード・ノートン目当てで観に行ったんですけど、やっぱ彼も上手だねえ。
彼の演じるマイクは、何にも考えてないんだろうな、きっと。俳優業も、天才的な勘で上手に演じることができるんだけど、若かったころに持っていたような情熱みたいなものはとっくに失われていて、演劇にリアルを求めているなんていうのは後付の言い訳で、実際は舞台の上で酒を飲みたくなったから飲むし、セックスしたくなったからしようとしたんだろうな。演劇が好きならたとえリアルを追及したとしてもそんな事しないでしょ。その場は臨場感が出たとしても、次のシークエンスはどうするんだよって話じゃん。
彼だけはあんまり、救われた気がしませんでした。最後まで自暴自棄な振る舞いをして、流されていただけに見えました。まあ最終的に流された先の選択は、悪いものではなかったとは思うけれど。
そういう風に、実は割と複雑な人間であるマイクを演じきってて、ノートン凄いなーって。グランド・ブダペスト・ホテルで生真面目な軍警察の大尉を演じているのを見たばかりだったのでなおさら思いました。
けどまあもうちょっと際立ってくれてもよかったかなあって。作中のマイケル・キートンとの演技合戦ではやっぱりマイケル・キートンが圧倒していたなって思いました。まあそういう話なんだからしょうがないんだけどさ。マイケル・キートンが身の上話をして泣き出すシーンは息を飲みます。
余談ですが私のマイベスト・エドワード・ノートンは「アメリカン・ヒストリーX」です。いつか記事にしたい。

本作はドラムがね、BGMのドラムが非常に良いです。むちゃくちゃかっこいいし、ストーリーに寄り添っていて心地よい。あ、予告で流れていた曲は本編では一切流れません。そこすんごいビックリしたけど、まあ、本編とは関係ない所だし、ドラムはかっこよかったので、良い。


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2015年8月7日金曜日

キサラギ……大の大人が売れないアイドル囲んで右往左往

2007年/日本
佐藤祐市監督


あらすじ:
自殺したアイドルは自殺じゃなくて他殺かもしれませんでした。


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私にとっての小栗旬はこの映画のイメージだ、と言うとビックリされます。
世間様では「クローズ」シリーズやら「ごくせん」やらのイメージが小栗旬のパブリックイメージというか、よくやる役柄らしいですね。私どれも観てませんので全然ピンときてないのですが、どうやらとっぽい兄ちゃんなんだなと。むしろこちらの方が驚きなんですが。
邦画をあまり観ないせいもあって、私はこの映画の影響で小栗旬は「朴訥で純真で不器用で真面目」みたいなイメージあったんだけども、その後いろんなところで彼を見かけるようになってからは、あらあら、まあまあ……とっぽいわ……騙されたわ……という気持ちになりました。
誰も騙してなんかないけども。
とっぽいて。
もちろん今となっても小栗旬は好きです。良い俳優よね。

ともかく今これを振り返ってみると、小栗旬って幅の広い俳優なんだなあって凄く感心するわけです。

「意外だわあ」というのは小栗旬に限った話ではなく、この映画観てると「塚地無我って演技うまいんだなあ!」とか「香川照之ってこんなこともすんのなあ!」とか、いちいち俳優の意外性にびっくりできるんですよね。絶妙。キャスティングがとても絶妙です。
香川照之に至っては「ゆれる」を観てからこの「キサラギ」を観ると謎のショックを受けることができます。何か分からないけど何かを確実に失った気持ちになれます。

2015年現在の今となっては彼らの意外性にもだいぶ慣れてきましたけども、2007年だから……8年前か、8年前観た時には本当に新鮮に映りました。

この映画、私の大好きな密室劇なんですけども、やっぱり密室劇って飽きない。ワンシチュエーションゆえに工夫して観客を楽しませようとしているのが見える映画ってとても良いですね。

内容的には、一年前に亡くなった、売れないアイドルの一周忌のためにオフ会に集まってきたオタク共5人の中に、実はアイドルを殺した犯人がいる…?というお話なのですが、あらすじで受ける印象ほどあんまり深刻じゃない。出てくるキャラクターがどこかみんな抜けてるのもあるし、まず死んだアイドルがもう、「そりゃ売れねえわ」感が物凄くてその時点でなんか、悲しみ切れないんですよね。こういうところうまいと思う。現実だったらそんな事言えないんだと思うんだけど、この子ほんと、本当に残念な子で、そこ含めてすべてこのファンたちに愛されてるのが分かっちゃって、「殺されたから可哀想だ」みたいな感じがとても薄い。なんかこう、「何もないところでつまづいてころんだら、なぜか足じゃなくて肋骨の骨にヒビ入ってた、可哀想」みたいな、同情はするけど不思議なおかしみがあるくらいのライトさで彼女の死を捉えちゃうんですね。
一応サスペンスだとは思うんですが、そのせいであんまり緊張せずに観ることができます。

この映画観てると、この人たち現場ですごく仲が良いんだろうなあっていうのが窺えるんですよね。男ばっかりで登場人物も少ないからかもしれませんが、連帯感がスクリーンから滲み出ている感じ。対立してたとしてもある種の信頼感が見える気がします。多分、ラストのせいもあると思うんだけど。
大の大人が売れないアイドルを本気で好きだっていうの、本当に面白いですよね。アイドルに限らず、飼っている犬や猫や、愛でている観葉植物や、そういった愛するものの前でメロメロになっている人の様子って、距離を置いた人からすると大変滑稽でおかしく見えたりするものです。私もよくいろんなものを愛して気が狂っている様を「面白い」と評されることがあります。余計なお世話だよ。
でもそういう風に好きなもののために満面の笑み浮かべて一生懸命右往左往している人を見るのって、すごくあったかい気持ちになりますね。サスペンスですけど、すごくハートウォーミングでもあります。あたたかい気持ちになりたい時にはぜひおすすめです。
でもまあひとつだけ、スタッフロール最後のおまけは絶対蛇足だと思うよ。


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2015年8月4日火曜日

フォレスト・ガンプ/一期一会……恋愛も虐待も戦争も全部チョコの中

1994年/アメリカ
ロバート・ゼメキス監督


あらすじ:
ちょっとだけシンプルにできた人間のちょっとだけ複雑な人生を追ってみます。


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少々体調を崩しておりました。
夏場の暑さにはどうも弱く、毎年毎年体調を崩している気がします。皆さんもご自愛ください。
体調を崩すとなんだか優しい映画が観たくなります。そんなわけでこんなド王道の映画をチョイスしたわけですが、何を今更、感ありますね。ありますけど、逆にもう、観てない人もいるかなと思いまして。なんせ20年前の映画だもの。ねえこれガンプの子供役にハーレイ・ジョエル・オスメントが出てんだけどさ、20年前の映画に出てたって言うのが衝撃受けるよね。えっだってシックスセンスでも子供だったじゃん、何言ってんのとか思うんだけど、シックスセンスも90年代の映画だって言うね。ワーオ!昭和は遠くになりにけり!平成の映画だけど!
今現在のハーレイ坊や知ってる?夏場の暑さとは関係なく再び体調崩せるレベルで面影がないというか、面影はばっちりあるのにそのまま小汚いおっさんになったというか、とにかくもう、切なさだけが夏の終わり級なので、心臓の強い方は是非検索してみてください。

先ほど「優しい映画を観たい」といいましたが、この映画の中で起きていることは実はちっとも優しくない。幼馴染の少女の身に降りかかる虐待だとか、普通学級にガンプをねじ込むために担任教師と寝る母親だとか、戦争で死ぬ盟友だとか。だけどこの映画が人の心を優しくするのは、ひとえにフォレスト・ガンプが残酷だからです。
残酷とは何を言いだすのか、彼は心優しい人間だ……という意見はごもっとも。彼は非常に優しい人間です。虐待される幼馴染の少女の身を案じることができるし、母親を愛しているし、盟友のために絨毯爆撃を受けるジャングルの中を迷わず走り出すことが出来ます。
でも彼は本質的に何が起きているのかを知りません。母親が自分のために何をしたのか、少女はどんな仕打ちを受けたのか、戦争とは何か。ちょっとだけIQが平均値を下回っているせいで、いや、おかげで、彼はどんな深刻な局面も「人生はチョコレートの箱のようなもの」とばかりに軽やかに切り抜けていきます。辛い状況に立たされても笑っていられる事、平常心でいられる事。これが出来る人間は強い人間であり、そこにユーモアを生み出すことが出来ます。
だけど、じゃあそれは、戦争で死んでいく兵士の視点から見て彼は「優しい人間」でしょうか?母親が犠牲になったことを知らずにいる彼は優しいでしょうか?虐待を受けた彼女の本当の痛みのかけらも知ることもない彼は?
彼の立ち振る舞いは非常にユーモラスで、時に人を優しい気持ちにします。しかしそのユーモアは残酷と共にある。彼の目線から外れたところで人は死に、泣いている。フォレスト・ガンプはそう言った悲哀が割と容赦なく描かれていると思います。

一方で、じゃあ、彼の鈍感さ、残酷さに救われた人はいなかったか?といえば、そんなことは決してないのです。
ダン中尉は戦争で身体に過酷なハンデを背負う羽目になり、そんな自分を救ったガンプを殺す勢いで憎みますが、最終的には穏やかな人生を得ることができます。ダン中尉かっこいい。好き。
かつての幼馴染も、ガンプの元で幸せになる。彼の残酷さは、やはり優しさでもある訳です。
優しい事、残酷である事、それら両方によってユーモアが生まれる事。不思議な事ですがユーモアというのは一見両極端に見えるようなものから生まれ、その実同じ源流だって事があるってことなんですね。この映画って、だから、すごい不謹慎になりかねない。だけど絶妙なバランスで残酷さをユーモアに変えているんです。ガンプが、ばかだからと言ってしまえばそうかもしれないけれど。
人間ってもっと適当に生きていいってことだよね、と思います。どう生きても誰かにとって残酷になるし、誰かにとっての救いになる。だからもう、好きなように生きろ。思い通りにできる感情は自分のものしかないから、せめて自分は幸せに、なろう。そういう話だなあと。
それはそうとダン中尉かっこいい。何度でもいう。かっこいい。
ゲイリー・シニーズ好きなんです……。もう御年60歳ですって。はあー。いい。許す。好き。

最終的に癒されるかと言うと、まあ、どうでしょう?今回の紹介通り、実はベトナム戦争前後のヘヴィな時代背景だから、重たく見ようと思えば見れちゃうわけです。でもさすがだよね、さすがバック・トゥ・ザ・フューチャーの監督だよね。やっぱりすごくライトに見れるんだよね。そして優しい気持ちにもさせられる。ゼメキス・マジック。
良い事も悪い事も、色んな事がごたごたと、チョコレートの箱の中みたいにバラエティに富んでいるけど、やっぱり最終的には甘いんだね。生きていればいいことあるよ。そういうメッセージなんだね、と思います。なんだかんだ言ったけど、それでいいんだよ。そうやって幸せになれば。
言わずもがなですが、とても良い映画だと思います。
そしてもう一回言っておこう。ダン中尉超かっこいい。最後に捕まえる嫁さん不細工なのがまた良い。(辛辣


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