2015年6月24日水曜日

アンナと過ごした4日間……寓話を作り出すひと



2008年/ポーランド・フランス映画
イエジー・スコリモフスキ監督

あらすじ:
不器用にも程がある男がレイプ現場に出くわして、被害者に一目ぼれしたので節度を持ってストーキングします。

我ながら何を言ってるかよくわからないあらすじだ……。なぜこれを記事一回目に持ってこようと思ったのかもよくわかりませんが、好きなので、なんとなく、書きたかった。それだけです。

この監督の作品はこれしか観ていません。今も作品を作っていらっしゃるのかわかりませんが、この作品は17年ぶりの監督作だそうで。そりゃ知らないはずだ。
そしてこの映画は日本の80年代に起きた実際の事件をモデルにしたそうです。日本では「水のないプール」として映画化されたやつですね。
水のないプールではしっかりアウトな犯罪として描かれるんですが、「アンナ~」の方はどちらかといえばセーフよりな犯罪に描かれています。なんだよセーフな犯罪って。

この物語が寓話じみているのは、ひとえに主人公レオンの愚かともいえるような性格ゆえだろうと思うのです。
レイプ現場に出くわしちゃって被害者にそのまま一目ぼれしちゃうのも、冤罪で牢屋にぶち込まれて囚人達にひどい仕打ちを受けても耐えてしまうところも、牢屋から出てきたらろくな仕事にありつけないことも、その仕事も首になっちゃうことも、全部ぼんやりと受け入れてしまう。
私からみれば、えー。なんですね。好きになっちゃうの?そんなことされて泣かないの?抗議しないの?
彼はごくごくシンプルな感情しか持ち合わせておらず、それ故に善良に見える、何とも言えない人間なのです。悲しいなあ、などと、一概に言っていいのか分からない。

そしてシンプルな感情しか持ち合わせない彼は、ごくごくシンプルな行動を起こすんですね。
そう、内気な彼が出来る事といえば、覗き、ストーキングでした。
彼女はレイプ被害にあった時レオンの顔を見ている。自分は何も持たない男だ。冤罪とはいえ前科までついている。牢屋の中で穢れてしまった。なにより、彼女を怖がらせるかもしれない。だけど、好きだ。よく言ってしまえば、そういった気持ちが彼女が毎日飲むコーヒーの粉末クリームに睡眠薬を混入させたのかも、しれませんね。
……綺麗にまとめようとしてまとまらなかった。
混ぜないわ。普通混ぜないわこれ。フォローしきれん。

だけど彼は彼女を傷つけようなんて思ってない。彼女が寝てる間、彼女を襲う事なんて何度でもできたのに、彼はそれをしなかった。もちろんそういう欲望がないわけではないのに、です。
そういう汚らしい欲望を抱えながら、彼女を思って彼は手を出さないわけです。チキンだと言われればそうかもしれないが。そういう部分も確かに大きいだろうが。
でも彼は確かに彼女が好きで、彼女の笑顔が好きで、喜んでほしくて彼女のはがれたマニキュアを塗り直し、部屋を掃除して、時計を直す。
もちろんこんなこと実際にされたら怖いに決まってる。けど、彼の頭の悪さ故に手段を選べなかった愛情表現を目の当たりにしたら、なかなか簡単には彼の事を責められない訳です。


ポーランドの空気が、ポーランドどころか一度も海外に言ったことのない私には分からないのですが、この映画の醸し出す鬱屈とした「ポーランド」臭は、何とも言えない寓話ぽさがぷんぷんしております。寓話って、実在のえげつない事件を題材にしておきながら、それをだいぶソフトにファンシーに仕上げているものがあったりするでしょ。この映画も、何か不穏なものをこの街のどこかに隠しているような雰囲気が出ているんですよね。そこがとてもいい。アメリカじゃこうはいかない。

物語の幕切れはあっけなくやってきます。それは寓話の終わりを告げるもので、寓話などではなかったという事を教えてくれます。
この話を寓話たらしめていたのはレオンの目を通したフィルターのせいであり、彼の手を離れた話は急に現実に帰るわけです。


現実はあまりにも彼に冷たく、彼を突き放してばかりだけど、それは彼が、善良ではあっても愚かであるからに他ならない。彼の愚鈍さを現実は許さない、けれど、彼は善良な人間で、それは矛盾しないんですね。
無知は罪であったとしても、彼の罪を罵る人もまた、無知のなせる業なのではないかなと、思います。

それにしてもレオンが恋する女性は妙に肉付きが良くていい。将来いい大家さんになりそうだという、勝手なイメージ。看護師なんだけどね。


まだこのブログの使い勝手になれません……なかなか難しいなあ。精進しよう。


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