2015年6月26日金曜日

私の中のあなた……奇跡が起きない事は悪い事じゃない

2009年/アメリカ
ニック・カサヴェテス監督

あらすじ:
何度も病気の姉のドナーにされるのが限界だから、親を相手取って訴訟を起こします。


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デザイナーベビーというものが、世の中にはあるんですね。この映画の公開時にはまだ実現していなかったようですが。
デザイナーベビーとは、受精卵を遺伝子操作することで知能や容姿を好きにカスタマイズされた子供の事だそうです。このお話は、白血病を患い、適合者も現れずにこのままでは死ぬのを待つしかなかった姉のために、適合した型を持つよう遺伝子をデザインされて生まれてきた女の子と、その家族のお話です。

冒頭で女の子は親を相手に訴訟を起こすんですね。幼いころから何度も骨髄液を抜かれ痛い思いをしてきたのに、今度は腎臓を半分差し出せと言われる。彼女の人権を親に認めてほしい、と裁判を起こすわけです。が、彼女の人権が認められるという事はすなわち、姉が死ぬという事です。

母親は姉が白血病を発症してからずっと正気ではなかったんだろうなと思います。デザイナーベビーは現代のアメリカでは認められているようですが、ただ自分好みの子供がほしかっただけ、という訳ではないこのケースを、モラルに反するだとかおぞましいだとか言って切り捨ててしまっていいものか。
娘(姉)を救うために、娘(妹)を犠牲にする事の残酷さについて母親は思考回路が停止してしまっています。もちろん、彼女が臓器を提供できたなら喜んで自分を犠牲にしたでしょう。それが出来ないから妹に託している。「嫌だよ」と断りづらい事を、断りづらいと分かっていながら、正しい事のためだからと、いろんなものに目をつぶって妹の体にメスを入れようとする。残酷なこととは分かっていても、思考を停止して姉を救う事しか頭にない。こんな人に向かって「私はドナーにならない」と言う勇気は一体どれほどの物でしょうか。妹だって、母を愛してるに決まってるのに。妹はそれを言わなければいけない。母親の想いを知りながら。

この話って原作とは結末が異なるそうですね。病気である事で親の目を独占してきた姉に、他の兄弟は嫉妬して非行に走るという原作のストーリーのほうがなんだか、しっくりきます。まだ子供だもの。映画だと、三兄弟なんですが、みんな仲いいんですよね。訴訟を起こしている間ですら、妹と姉は仲良しです。物わかりが良すぎるんですね。

ネタバレになるので細かい話は伏せますが、妹が訴訟を起こしたのは姉のためでした。妹自身は、臓器を取られることも嫌ではなかったと思います。姉が生きれるなら差し出したって良いと思っているんですね。途中で母と言い争う時に「スペア・パーツとしての生き方はもううんざりなんだ」と言ったことが、11歳の女の子としてはよっぽどハマるセリフだと思うだけに、彼女の下した決断が出来すぎてる…と思う一方で、出来すぎるほど優しい選択をしたこの子の愛の深さに涙が止まらなくなりました。

妹役の子も演技が凄かったけど、お姉ちゃん、体張ってるよね。年頃の女の子が眉毛も髪の毛も全部なくなるっていうの、相当なショックだと思うんです。女優魂半端ない。


奇跡なんて起きないから奇跡っていうのに、母親はそれに追いすがっていました。奇跡なんて起きなかったから、妹は遺伝子いじられてまで無理やり生まれてきたのにね。
物語が落ち着くところまで落ち着いて、正気を失っていた母親の目が覚めるころ、家族はお互いの傷を癒しあいながら寄り添って生きていきます。
奇跡なんてない。奇跡なんてないからこそ、姉が病気を発症して長年耐えたことに意味が与えられ、意味が与えられたことで救いが生まれ、家族の中に、私たちの中に、得難い何かが残るんだと思います。


なるべくネタバレしないで書くって難しいですね……頑張ります。


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