2013年/アメリカ?(ちょっと資料見当たりませんでした)
ジャン=ピエール・ジュネ監督
あらすじ:
最愛の弟が死んで家族がバラバラになったから、ちょっと化学賞とって3000㎞の旅に出ます。
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知らなかったんです。ジュネ監督が新作を出していたなんて!ショックでした……すごくショックでした。劇場で観たかった。ジュネ監督が初めて3D作品に手を出したそうで、ああここの部分が3Dだったのか……と所々で思ったんですが、従来の3D作品とは使い方が違うんですね。空想と現実の分け方に3Dを使っている。なかなか面白い手法だと思うんです。それだけに、本当、3Dで観たかったなああ……と思っていたら、私の住んでいる地域では放映していなかったみたい。なんでだ!ジュネだぞ!解せぬ!
さておき、今回もおもちゃ箱をひっくり返してちりばめた……と思いきやこれ1㎜単位できっちり配置決めた置き方してる!?というほっこりした後その計算高さに背筋が冷える、そんなジュネ監督の真骨頂に触れることができます。
T.S.スピヴェットはなんだってできるのに、亡くなった弟の方が何でもできたという呪縛にとらわれた少年です。彼は弟を愛していたし、家族も自分より弟を愛していたと思っているんですね。
実際のところ弟にあった才能は父親譲りのカウボーイ精神とセンスで、T.Sが持っているような天才的な頭脳や武道の心得なんかは持ち合わせていませんでした。弟が生きていれば、生きていた時もきっと、兄を尊敬していたと思います。自分にないものはいつだって輝かしいから。
弟が亡くなった後、家族はどうにもよそよそしくなってしまいました。自分では埋められないその穴にどうしようもなく孤独を感じるT.S少年は、己の居場所を探して大冒険をします。9歳の少年が、西部モンタナから東部ワシントンまで、資金もままならないのに天才的な頭脳とアイディアでもってアメリカを大横断します。
このシーンがまた、とても良いんですね。貨物列車に潜んで、風を浴びて青々とした緑の中を進んでいく。そのシーンはスタンド・バイ・ミーのようなちょっとした冒険を楽しむただの少年のようでほのぼのとします。とても永久機関(400年間しか持続しないとはいえ)を開発した功績をたたえられて化学賞を受賞した人間とは思えない。この子の凄い所は、天才のような精悍な顔つきと、子供らしいあどけなさが共存しているところです。変に大人びていない。ちゃんと、子供として、背伸びしているように見える。達観はしていないんですね。子供が子供であることを分かっていて、どうしようもない時は大人の力を借りて、そして子供なりに考えた結論で苦しんで、お母さんの腕の中で泣く。ちょっと賢いだけの、愛されたがっているこの少年に、自分の幼少時代などを思って涙ぐんだりしました。私は別段賢くはないんだけども。むしろ残念よりだったけれども。
道中彼を助けてくれる大人はたくさんいて(助けてくれない大人もいるんだけども)、その触れ合いがまたほっこりします。ドワーフかな?みたいなおじさんのお話をうんうんと聞いて、余計なこと言って水を差したりもするんだけど、後々おじさんから聞いた話は彼の中に残りつづけて糧になっていくし、売店のおばちゃんは家出少年と知りながら優しく諭しつつも見逃してくれたり、大人には、こういう余裕が必要なんだなって思いました。子供だって、自分がしていることの大変さは分かっていて、分かったうえで行動しているという事を、大人なら一歩進んで理解することも大事だな、と。
もちろん家出した少年を見かけて後押しするのが正解かと言われれば、ちょっと違うかもしれません。けども、リスクを取ってまで何かをしている子供の事を、子供なりに考えていることを汲むために人は大人になるんではないかなって思うんです。報われなかった子供時代の自分を救うために。そんな気がしました。
それにしてもT.Sを演じたこのカイル・キャレットという少年、映画の中だけでなく実際にもなかなかの天才のようですね。6ヶ国語を話し、武道選手権にて3年連続世界チャンピオンだとか。劇中でやったら奇麗にヌンチャクをさばくと思ったらそういうことか……。ロシア語っぽい言葉も話してたっけ、そういえば。あれ彼の素養があってこそのシナリオだったんだな。怖いわ。
天才子役と言えば私の中では今も昔もマコーレー・カルキンなんですが、彼の大人になってからを追うとなんか、こう……ね?分かりますでしょ?すごく物悲しくなるんですね。子役ってどうしても、この子もやがて、ああ……という目で見てしまう。
けれど、彼の場合は彼個人がしっかりしている気がします。周囲の大人が変な動きをしなければ、そのまま健やかに育つんじゃないかな……育ってほしいな……と、さっそく親目線になる始末なのでした。
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