2015年7月16日木曜日

メメント……悪意すらない残酷な世界の中で

2000年/アメリカ
クリストファー・ノーラン監督


あらすじ:
「俺は間違ってない」と言わんばかりの涼しい顔で面白いほど次々に地雷を踏んでいきます。


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ノーランが好きすぎて、今の今まで弊ブログにて触れることができませんでした。好きも行き過ぎるとまったく筆が進まなくなります。言いたいことが多すぎて。そして伝えられる技量が無さすぎて。まずは、まだ言語化できそうな「メメント」から取り掛かろうという魂胆なのですが、これもまあ自信がない。うまくやれるといいなあ。

いよいよレビューを書こうと決心し、色々と調べていたのですが、ノーラン監督って思った以上に若かったので度肝抜かれております。メメント撮った時って30歳だったんだね…?!主人公のガイ・ピアーズの方が年上じゃん……!!
しかもメメントの脚本は弟のジョナサン・ノーランと共同執筆で、その時のジョナサンは26歳です。うわあ、信じられん……なんて脳みその構造してるんだ彼らは……。

彼の映画が好きなもので、結構いろんなインタビューに目を通しているんですが、彼の姿を見かけるたび「サッカー代表の監督みたいだな…」と思います。あんまりいなくない?パリッとしたスーツでピッシーって決めて映画撮影してる人って。サッカー競技場のベンチそばに立たせてみたい。すごくしっくりくるに違いない。

役柄の内面を深く掘り下げ、過度に痩せたり太ったり、役柄と同じ環境に身を置いてみたりする事で、よりリアルを追及した演技を行う俳優を「メソッド俳優」と言いますが、ノーラン監督は「メソッド俳優」ならぬ「メソッド監督」であると私は思います。
どこまでも映画の世界観のリアルにこだわるその姿勢はもう狂気じみていて、ビルを破壊するのは当然やるし、雪崩も起こすし、一面のトウモロコシ畑を作るし、壊れた飛行機の半分を実際宙に吊るすし、なんでもリアルに再現しないと気が済まない非常にマッドなムービーメイカーです。
今作は2作目の監督作という事もあってまだそこまでの狂気は感じられませんが、それでも充分その片鱗をうかがわせます。
この頃のノーランは意図して撮影方法に叙述トリックを仕込んでると思うんですよね。この映画の場合そうならざるを得ないとも言えますが。でもそれにしたって最近の凝り方はベクトルが変わってきてる。「最近の映画残り方」については後日、その映画を紹介するときにでも触れるとして。
この映画の特徴である「主人公が10分前の記憶を失っていく」という性質上、重複するシーンがたびたび出てくるんですが、それらすべて一つのシーンを使いまわすのではなく、「人の記憶は曖昧だ」という事を表現するために若干演技を変えて撮り直されているのだとか。でもそんなの普通気づかないよね!きがくるってる!
よく見ているとサブリミナル効果も仕込まれていたりして、映画表現を模索する若かりしノーランがそこかしこにうかがえます。

当然ながら観ている私たちは記憶を失わない訳で、主人公であるガイ・ピアーズが記憶を失って頓珍漢な行動を起こす事にちょっとおかしみすら感じてしまうんですが、この映画の怖い所って「実は主人公を翻弄している周りの人間は特に悪意がある訳ではない」というところだと思うんですね。
悪意があればまだいいと思うんです。でもガイ・ピアーズが体中に入れ墨掘るほど必死になってる事なんて、みんな知ったこっちゃないんです。悪意がない代わりに好意もない。本質的に全く興味を持ってないんですよね。キャリー・アン・モスは本作で一番「悪意」に近い行動をとる人ですが、ガイ・ピアーズの病気を知って怒りの半分くらいを挫かれてると思うんです。その上で、復讐から、彼を利用する方向にシフトする。彼女の行動は悪意だけでは説明がつかない冷静さがあると思います。
周囲の、特に危害を加えられていない人たちも、ガイ・ピアーズに同情する顔で平気で利用する。そこにやっぱり、悪意はないんですよね。そこには純粋な無関心があるだけ。それはかつての、病気を患う前のガイ・ピアーズそのものでもありました。当時の彼も悪意なく誰かを追い詰めた事を覚えている。その事に今までは関心を払わずに生きていた。それがここにきて、無意識化で芽を出して、彼の心を蝕んでもいます。
物事の大小はあれど、人というのは自分自身に精一杯で、つい図らずに人を蹴落とす行動をとるということは多分にあると思うんです。時にそれは許されないことでもありますが、誰しも視野が狭くなり他人を思いやれなかったことがあるはず。彼を責められる人なんてそうはいないんじゃないでしょうか。そしてもちろん、彼の周囲の無関心な人々に対しても。
無関心は巡り巡って人を殺すんですね。物理的にも、心理的にも。そういった寒々しさがこの映画の全体的な空気を覆っています。

私が観た中ではこれが一番古いノーラン監督作品ですが(フォロウィングは未見です。結構幻のフィルム扱いされていますね)、この頃の作品って基本的に救いがあまりない。メメントもどこまで行っても袋小路の映画ですが、逆に最近の作品は、絶望的な状況から希望を見出すラストにつながるものが多いように思います。ノーランの心境の変化なんですかね。救われた気持ちになりたいなら新しめの作品をお勧めしますが、粗削りだけど骨太で荒涼とした作品を見たいならぜひ、メメントをどうぞ。


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