2015年7月9日木曜日
ゴーン・ガール……ヒーローなんていない
2014年/アメリカ
デヴィッド・フィンチャー監督
あらすじ:
ベン・アフレックがクズだと安心しますね。
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どうしてでしょうね。「アルゴ」とかかっこよかったし、ベン・アフレックってそんなにいい加減なキャラばかりやってきたというわけではないと思うんですが、その嘘くさい笑顔とかね、「こいつ、その場しのぐわぁ……どんどんしのいでいくわぁ……」と思ってしまうんですよね。ベン・アフレックは悪くない。あの顔つきが悪い。結局ベン・アフレックが悪い。
デヴィッド・フィンチャー監督作品を久々に観た気がする……と思って調べてみたら、ゴーン・ガールの一つ前に観たフィンチャー作品は「ドラゴン・タトゥーの女」でした。なるほど。なるほど確かにフィンチャー。あれも機会があれば紹介したいと思います。
私の中でフィンチャー監督って「ムラのあるヒットメーカー」というイメージなんですね。フィンチャー作品で一番好きなのは「ファイトクラブ」なんですが、正直、それ以降は、あまり追いかけておりません……パニックルームとかもあまり評判良くなかったね……。ソーシャルネットワークは賞とかとってたけど、私はいまいちピンと来ていなかったんですよね。ちゃんと見ていないのも悪いけども。ちゃんと見ると違うかしらん。
この映画は特にベン・アフレックのダメ凡人ぶりがとてもいいです。「昔ラグビーとかアメフトとかやって学生時代ヒエラルキーの上位にいたことはあるんだろうな」と思わせるような、若さ故につけあがりその上に胡坐をかき成長もせずついでに腹もたるんだ、みたいな体型がたまりませんね。彼の体は傲慢の成れの果てという感じがよく表れておりました。褒めてないなこれ。
このお話、誰も頭が良くないんですよね。ベン・アフレックは凡人なりに頑張って真相を追うけど、凡人が追えるレベルにとどまっていますし、嫁は嫁で一番頭が良いと思わせておいて案外計画にぼろがでて行き当たりばったりな行動をしますし、ベン・アフレックの弁護人も鳴り物入りで出てきたと思わせておいて「これ以上は無理だぜ」とか渋い顔で言います。警察官も真相に手が届く位置に迫りながら証拠をつかめず事件は闇へ。どいつもこいつも、役立たずめ…!
ぐぬぬ、と拳を堅く握りたくなりますが、でも、これが本当の私たちの世界なんですよね。自分で難事件を解決することなんかできない。弁護士だって警察だって自分の仕事を全うする以上の事はできない。颯爽と即座に事件を解決するヒーローなんて、普通はそうそう現れないのです。フィンチャーはいつもそういう、「誰も超人的な力を発揮する事なんてできない」という事を突き付けてきます。
ベンにとってのヒーローがいなかったのと同じように、嫁ことエイミーにも、ヒーローなんていなかった。だけど彼女はある意味で物語の主人公でもあります。母親によって作られた虚構の、ではありますが。だから彼女は、物語の主人公としてヒーローの存在を信じ、誰よりもヒーローを求めます。それが、虚構だとしてもいいんですね。彼女自身が虚構だから。
どうしようもなく破綻した関係を突き付けられて、それでも彼女は「これが結婚よ!」と叫びます。こんな絶望しきったセリフはあるだろうか、と思います。彼女にとっての、これが、この結果が結婚だという事実。
母親によって常に理想を押し付けられてきた彼女の身体の、皮一枚の内側にあるどうしようもない空洞を垣間見るシーンでした。彼女には、何もない。彼女はきっと、それに気づいている。
もちろん彼女が望んでいるのは虚構ではない、真のヒーローなんでしょう。でもヒーローなんていない。今までいなかったものは、これからも現れない。この世界にヒーローなんて、いないんだよという、どうしようもない現実に、鉛を飲み込んだような胃の重たさを感じる作品でした。
それはそれとして、ベン・アフレックの嘘くさい笑顔は是非見ていただきたいです。絵に描いたみたいな欺瞞そのもののアメリカ人の笑顔を見せてくれるので笑えます。
最後までベンを褒めてるつもりで褒められなかった。いい役者なのに。
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